南山剳記

読書記録です。原文の抜き書き、まとめ、書評など、参考にしてください。

シチリア・マフィアの世界(藤澤 俊房)

シチリア・マフィアの世界

藤澤俊房『シチリア・マフィアの世界』(中公新書)、中央公論社、1988年

剳記一覧 :: 南山剳記

 

【徳武 葉子・撰】

 

シチリア・マフィアの世界 (中公新書)

シチリア・マフィアの世界 (中公新書)

 

 

最初から最後までゴッド・ファーザーのテーマ曲が流れる内容でした。力強さと悲しさが眉間に深いシワを刻みます。シチリア人の表情にはオルメタが深くしみこんでいるようです。当時読みながら、任侠との違いを思い描いていました。こういうタイプの人たちの行き場が失われ、訳の分からない巨額の金が動くスポーツ界などに身を寄せているのでしょう。それか国防というお墨付きを得た軍人か。結局は“人情”抜きの形骸化されたものだけが。世の中空洞化が止まりません。

 

p.6 名誉と沈黙  

シチリアの最も下層な民衆にまで浸透したシチリア貴族の特性とは、ひとことでいえば、名誉とオルメタ(沈黙)に他ならない。
〇誠実・信頼・強さ
〇沈黙を守り支配者に対する抵抗の姿勢を示す
シチリアフェニキア人、アラブ人、イタリア人、ギリシャ人、フランス人、ローマ人、スペイン人

 

p.8 マフィア精神 

過酷な生活に耐えられなくなった状態で本能的に反発、反抗する、いうなればさまざまな暴力に対する忍耐の限界を越えた時に反撃に出るその表現としてのマフィア精神である。

 

p.13 マフィアの起源は犯罪組織ではなかった 

マフィアはその発生において、唯一の指導者と国有の規約を持つ、権力が一点に集中する犯罪組織ではなかった。1864年のイタリア統一とともに、マフィアは「秘密結社」「犯罪組織の集合体」とみなされる。  

 

p.33 マフィオーゾとは 

マフィオーゾとは、シチリア人によれば犯罪に専念する人間をさすのではなく、自分たちの権利を尊重しうる人間を意味する。

 

p.55 コルレオーネはアラブ起源の村

ゴッド・ファーザーで有名となったコルレオーネは、アラブ起源の村。

 

p.72 兵役を拒否して山賊に 

戦争に動員された兵士の数はイタリア全土で590万にのぼった。だが、シチリアの青年の多くは徴兵を拒否し、山中に潜み山賊となった。

 

p.78 新しいマフィアの勝利

1925年の選挙でファシスト(クッコ側)が勝利=古いマフィアに対する新しいマフィアの勝利

 

p.99 ムッソリーニはマフィアを利用した 

チュニスで反仏の争乱を起こすために、ムッソリーニはマフィアを使い、1939~40年にイタリアが第2次世界大戦に参加する意志がないと、アメリカに信じさせるためにマフィアを利用したといわれる。

ファシズムの反マフィア政策で最も重要なことは、マフィアの撲滅であったのではなく、アスカリズモのような以前にみられたマフィア的現象をファシズムの支配的システムから完全に除去し、ファシズムの絶対的な支配権を、それまで国家的統合が遅れていたシチリアに確立することであった。

 

p.101 シチリア独立運動 

ファシズム独裁に亀裂がみえ、その終わりが近づく否や、マフィアは勢力の回復に向け始動し、戦争末期に積極的に行動したのはシチリア独立運動であった。

 

p.104 連合国軍への協力

1943年5月・カサブランカ会議「ハスキー作戦」英米共同のシチリア島占領作戦→7月22日・パレルモ入城→8月17日・シチリア全土

この時マフィアはナチ・ファシズム側の情報を与えただけでなく、連合軍の上陸、シチリア制圧後の協力も保証。

 

p.147 シチリアが特別自治州に

1946年、イタリア政府がシチリアを特別自治州と認める。

 

p.150 シチリア農民運動

1946年、進歩と文明の実現者として自らを認識したシチリア農民運動。土地占拠闘争は暴力的でなく平和的な集団行進/共産党社会党が指導。ファシズム以前に農村地帯でマフィアが作り出していた古い秩序を再確立。

 

p.171 ポルテッラ・デルラ・ジネストラ事件 

ピッショッタの証言「われわれ山賊と警察とマフィアは、父と子と聖霊のように三位一体でした」。

 

p.178 伝統的マフィア“尊敬と〝名誉〟VS新興マフィア〝金追求〟

 

p.188 封土マフィアと企業家マフィア 

「封土マフィア」……農村共同体的社会にみられる宗教心尊重。名誉ある社会、名誉ある人間。マフィオーゾは寡黙で控えめな行動
「企業家マフィア」……タバコ密輸や麻薬取引で莫大な利益。カモリスタは自分を誇示し派手な装身具。

 

p.202 イタリアのマフィア政策

国のマフィア政策の非積極性、不徹底性は、イタリア統一以来続いているものである。その原因がイタリアの保守政治がマフィア的風土に大きく依存してきたことに行き着かざるを得ない。このような風土に嫌気がさした者はマフィアはイタリアとは無関係のシチリア現象として無関心をよそおい、シチリアで生きねばならない者は恐怖から無関心になるか、あきらめをもってその社会に耐えるしかない。