中空構造日本の深層(河合 隼雄)
中空構造日本の深層
河合隼雄『中空構造日本の深層』(中公文庫)、中央公論新社、1999年
【徳武 葉子・撰】
関連項目
凡例
★は撰者の書き込み(私的意見)
p.11 現代の不安と知の不均衡
強烈な不安がどうして現代人に迫ってくるのであろうか。それは結論を先取りして述べるならば、われわれの自我の支柱となる知が極めて不均衡な状態であるためと思われる。
★例えば人によって大きくばらつくのが時間の単位。宇宙や歴史の軸を持つ人にとって千年は軽く飛び越えられるが、経済第一主義の人にとって昨日の出来事も瞬時に腐敗していく。どちらが不均衡なるかは一目瞭然。
p.17 思想に対する冷笑的虚無主義
思想というものに対する冷笑的虚無主義が、現在では強くなっていると感じられる。
★悲しければ涙を流さなくとも肩を落とし、床に伏せてもいいでしょう。喜びが舞い込んだら次の心配を探さず、飲めや歌えやで嬉しさに浸ればいいでしょう。しっかりと心を反応させる余裕を心がけたいものである。
p.20 内的な神話の知と外的な事物の照応
人間は内的な神話の知を、外的な事物を通じて語らねばならない
★ケレーニーいわく、本来神話というものは『なぜ』にこたえるものではなくて、『どこから』に呼応するもの。
p.24 一神教的な統合性と近代科学の合理性の結合
西洋において一神教的統合性の希求と、近代科学の合理性とが結びついたとき、その統合は極めて一面的な性格をもつことになった。
p.43 男性原理と女性原理
男性原理…合理的思考、判断、個人の責任における主張→ものごとを切断する機能を主とし、切断によって分類されたものごとを明確にする。
女性原理は、結合し融合する機能を主とし、ものごとを全体の中に包み込んでゆく。
p.46 日本の神話の中空的構造
日本の神話においては、何かの原理が中心を占めるということはなく、それは中空のまわりを巡回していると考えることができる。正・反・合という止揚の過程ではなく、正と反巧妙な対立と融和を繰り返しつつ、あくまで「合」に達することがない。
★繰り返し続けるという概念。結論やひとつの結果に達することだけを良しとせず、ぐるぐる回るものも良しとする。
p.56 日本における「国民的合意」
森嶋通夫氏「日本では通常『国民的合意』は軽率に、しかも驚くべき速さで形成される。その上、いったん『合意』ができてしまうと、異説を主張することは非情に難しいという国柄である」
★東京オリンピックのマラソン開催地が札幌へ。議論する余地がない展開の速さに唖然とし、IOCではなく札幌を非難するコメンテーターの脳みそに再び唖然。
p.63 無にして有としての中空
中空の空性がエネルギーの充満したものとして存在する、いわば無であって有である状態にあるときは、それは有効であるが、ちゅうが文字通りの無となるときは、その全体のシステムは極めて弱いものとなってしまう。
★以上のことは人体内でも起きていることではないだろうか。
p.179 特殊と普遍の関係
フランス精神医学者アンリー・エー「意識しているということは自己の経験の特殊性を生きながら、この経験を自己の知識の普遍性に移すことである」
★この作業をしているならば、「自分は分かっているがアイツは分かっていない」というセリフが減るはず。まだまだ足りない修行の我が身。
p.188 感性、悟性、理性の統合による革新
安易に感性の世界を拡大しても、それをいかに統合するかという点で革新的なものを見出さぬ限り、それは本来的には大きい意義を持ち得ないし、古いものの塗りかえにすぎないものとなる。
★スピリチュアルの範囲の広さと、哲学分野とも被りそうな単語の羅列に要注意。
p.215 日本人の集合的性格と母性原理
日本の家族構造の亀裂…母性原理すべてのものを平等に包含=個性が犠牲、社会に従属して存在、家と社会を通じてはたらく母性原理に守られて父権を行使…をどのように癒すかは、昔にかえることによってなされるはずがなく、日本全体の相当な意識改革によってこそ可能ではないか。
p.225 美徳と影、善と悪は表裏の関係にある
美徳の影の面に対する自覚をもたぬとき、それらはしばしば「善の名において悪を行う」ための標識になり下がってしまうのである。
★「善」旗を掲げて迷うことなく悪者を斬っていく集団を、至るところで目撃できてしまう怖さ。