南山剳記

読書記録です。原文の抜き書き、まとめ、書評など、参考にしてください。

奇獣ヲゴルの図

前頭側頭自閉軒全集抄⑤

奇獣ヲゴルの図[1]

『ヲゴルノ図』(江戸後期?) 仏壇から出てきたという古図。

 

玉繭子(ぎょくけんし)、知友宅の仏壇より見つかりし『ヲゴルノ圖』[2]なる古図を予に示す。詞書に「尾は五色、天鵞絨(びろうど)の毛のごとし」とあり。阿蘭陀渡りの奇獣なり。予また何物かを知らず。
額に一角あり。江戸の世に一角の獣を「うにこおる」と言ひしことあり。この語は英に「ユニコーン」と言ふ。イッカクを言ふなり。
木村蒹葭堂に『一角纂考』(1795)あり。蒹葭堂、大槻玄沢に嘱してキルヒャー『地下世界』(ムンドゥス・スブテラネウス)を訳せしむ。その挿図[3]よりウニコールの海獣たることを知りき。私に思へらく、「ウニコール」の些か「ヲゴル」に音の似たるものの如しと。
本邦に「ウニコール」の知られし始めは、遠藤元理(えんどうげんり)が『本草弁疑』(1681)なるべし。益軒は「ウニカウル」と書きたる由、『大和本草』(1709)に具なり。疱瘡に効くとかや。白石また七歳にして痘瘡を発す。「ウンカフル」を服して癒ゆ[4]となむ。また溺死人に飲ましめば則ち蘇生すと益軒書きたり。益軒、これを陸獣と思ひける由なり。
一考を付して識者の見解を俟つ。或いはこれ「ヲゴルノ」か。

                                   〈2023年4月16日〉

 

[1] 南澤玉繭宛、自閉軒メール(2023年4月16日)は、ほぼ同内容。

[2] 自閉軒宛、南澤玉繭メール(2023年4月16日付)に「知り合いの家の仏壇から登場したらしいです」とある。

[3] アタナシウス・キルヒャ―『地下世界』(『Mundus subterraneus』)。蒹葭堂『一角纂考』中の「一角魚身有鱗図」は、蘭語版『D' Onder-Aardse weereld』(1665年、アムステルダム)の一角獣図を写したもの。

[4] 新井白石『折りたく柴の記』(1716頃)。