南山剳記

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心を操る寄生生物(キャスリン・マコーリフ)

心を操る寄生生物

キャスリン・マコーリフ『心を操る寄生生物 感情から文化・社会まで』、西田美緒子訳、2017年、インターシフト

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【徳武 葉子・撰】

 

心を操る寄生生物 :  感情から文化・社会まで

心を操る寄生生物 : 感情から文化・社会まで

 

 

凡例 

は撰者の私的書き込みです

 

p.14 ヨーロッパから持ち込まれた病原体 

コロンブスが新世界に上陸してわずか数世紀のうちに、ヨーロッパから押し寄せてきた侵略者と開拓者が持ち込んだ天然痘、麻疹、流行性感冒、他病原体によって、南北アメリカの先住民の95%が死に追いやられた。

地球規模で考えると、生命の誕生以来地上に現れた生物の99.9%が絶滅している。ヒト亜族がチンパンジー亜族と分かれた後、少なくとも12種のヒト族が生まれて、たったひとつ(あなたとぼく)を除いて消滅した。池澤夏樹『科学する心』より。


p.23 咳について、人の立場と寄生生物の立場 

誰かが咳をするのは、その人の体が肺から病原菌を吐き出そうとする努力のあらわれであり、寄生生物が自らを拡散させようとする決意のあらわれでもある

 

p.73 ミツバチとヒトの脳は似ている 

ミツバチの脳は分子レベルでは人間の脳とよくにている。共通の構成要素をもっている

ドイツベルリン自由大学の研究者は、ミツバチが餌を探す際にお互いに情報を伝える動きを模倣した、蜂型ロボット「Robo Bee」を開発。
農業•食品産業技術総合研究機構は2019年7月13日までにセイヨウミツバチが蜜のある花の場所を仲間に伝える「8の字ダンス」を自動で解読できる技術を開発。

 

p.77 ヤロスラフ・フレグル(プラハカレル大学進化生物学者

ネコの寄生生物トキソプラズマ原虫は、ネコの体内でのみ有性生殖が可能。糞に混じって外に出る。


p.83 トキソプラズマ

世界中の人口の約30%の人々は頭にトキソプラズマを住まわせている。レアで肉を食べるのが好きなフランスでは感染者は50%を超えている。発展途上国では(水が感染源で)90%の人々が潜伏感染。
トキソプラズマ感染の特徴=男女ともにそうでない男女に比べ、実直さが薄く外交的。


p.87 猫の糞からトキソプラズマに感染 

猫の糞から感染するようになるのは、糞が3日〜5日ほど空気にさらされてから。掃除や手洗いをしていれば安全。感染ネコからトキソプラズマのオーシストが出てくるのは1回だけ。同じネコが2回感染することはない。家ネコは感染しない。


p.89 統合失調症トキソプラズマ 

統合失調症患者の44人中12人の大脳皮質の一部から灰白質が失われ、トキソプラズマに感染していた。


p.94 トキソプラズママラリア原虫は近縁種 

トキソプラズママラリア原虫は近縁。原虫ゲノムの遺伝子がドーパミン(快楽の中心的役割)生産に関与。


p.95 トキソプラズマドーパミン生産に関与

トキソプラズマがついたニューロンは、他の3倍半も多くドーパミンを生産。


p.98 睾丸にも入り込む

トキソプラズマ原虫は脳だけでなく睾丸にも潜り込む


p.108 18世紀のネコブームと統合失調症 

1700年代後半〜パリ、ロンドンでネコブーム以降、統合失調症の発生率が急に上昇。統合失調症の患者はそうでない人に比べ、トキソプラズマの抗体を持つ割合が2〜3倍高い。


p.113 HIVと性欲亢進 

HIV感染者は末期段階になると恐ろしいほどの性欲にとりつかれる時期を過ごす。


p.135 ヒトには数千種の微生物が棲みついている 

子供も大人も通常はおよそ2千〜3千種の微生物に住み家を提供しており、まったく同じ組み合わせを持つ人間はふたりといない。指紋と同じ。


p.137 無菌マウスの性向 

無菌マウスには自然な好奇心がまったくない。見慣れたものを好み、奇妙に怖いもの知らず。


p.141 GABAの役割 

GABA(神経伝達物質)→恐怖と絶望に対する体の反応を抑える中心的な役割
プロバイオティクス→ヨーグルトなどの含まれている有用菌

KOEI SCIENCE 光英科学研究所
1905年正垣角太郎医師による乳酸菌研究〜京都市でヨーグルト販売〜1925年京都大学「研政学会」設立〜1969年現研究所創立〜2015年城西大学と産学共同研究


p.154 腸内細菌の減少と肥満 

マーティン・J・ブレイザーNY大教授「抗生物質が腸内細菌を激減させて肥満の人口を増やしているのかもしれない」(『失われてゆく我々の内なる細菌』)。


p.163 精神医学と胃腸病学 

精神医学と胃腸病学の綿密な関係。


p.187 睡眠と寄生生物

睡眠が寄生生物への抵抗力を強める。


p.197 土食愛好家の人気商品 

おばあさんのジョージア・ワイト・ダート。


p.200 ヴァレリー・カーティス

ヴァレリー・カーティス ロン大学衛生熱帯医学嫌悪学者


p.224 行動免疫システム 

自分が感染の危険にさらされていることに気づくと自然に心に湧き上がり、なるべく病原体に触れないような方法で行動するようにかりたてる思考と感情。例)異人種、異民族、奇形、肥満など。


p.229 感染症と移民拒絶反応 

アメリカで移民に対する反応が最も多かったのは、感染症の発生率が最も高い州。


p.241 デヴィッド・ピザロ(コーネル大学倫理心理学)

「僕の倫理的な義務は、この感情の影響を受けて実際に誰かの人間性が踏みにじられることがないようにすることだ」


p.242 感情と病原体

道徳的思考がどれだけ感情によって導かれやすいか。すぐそばに病原体があると、私たちの価値観が実際に変化する。


p.250 色イメージ、病原体と清潔さの意識

白を道徳的、黒を非道徳的に最も素早く結び付けられる人が、病原体と清潔さをより強く意識していることになるという理論。有色の人が有罪となる確率がアップする。


p.255 ヒトの協力行動

人間は生まれついての利他主義ではない。人間は協力しないと高くつく場合にだけ協力する。


p.256 エチケットの起源

協力できるくらい近くに寄るが、健康を危険にさらすほどは近づかない。私たち人間はこの絶妙な綱渡りを成功させるために規則を必要とし、礼儀を手に入れた。


p.259 モーセの律法 

清潔さに関連する事柄と、今では病気の広がりに重要な役割を果たすことが知られている生活要因とに心を奪われている。

ユダヤ人聖職者は手を洗わなければならない
●豚肉と貝を避ける
●息子を割礼する
ユダヤ人の安息日の入浴
●井戸にふたをする
●腐敗前に埋葬する
●皿と食器は使用後に熱湯い沈める

清潔は敬神に次ぐ美徳。


p.271 感染症と内向性

歴史的に感染症の発生率が高い地域では、人々が内向的になり、新しい経験を求める傾向が低くなっていた。


p.276 寄生生物の負荷と不寛容さ 

寄生生物の負荷が非常に小さい地域では、無神論が広がっている。寄生生物のホットゾーンでは性と衛生に関連する慣習に従う圧力が強まる。不寛容な風潮が生まれやすい。→抑圧的な政権の樹立に適した条件。独裁政治傾向が強い。

 


後記 撰者より

全体を通しそういう見方も存在するということであり、決定づけるものではありませんが、それでも「もしや」という気持ちのまま読み終えました。うちには猫がいるし、ウンチもするし。心も体も自分が操るものと思っていたら大間違い!という視点を持つだけでずいぶん謙虚になれそうです。

粘菌コンピューターというものがあります。地図上に存在する人口の分の餌を置き、粘菌を放つと餌と餌を繋ぐように繁殖していきます。その線が路線図と一致するというもので、重なり合わない部分は人間が非合理に建設した経路なのではと言われています。特にインド鉄道は驚くほど一致するとか。